キン肉マンの問題の修正
Mさんはいくつか非常に重要なポイントを指摘されています。
とくにバブルがなかったら、今の問題はいっさいなかったのかという疑問ですが、たしかに今ほどひどくはなくても、問題があった可能性はあります。
今のように上場会社三五○○社のうち二○○○社が借金返済をしているという事態には、おそらくなっていないでしょう。
しかし、みんなが借金返済をやって金融政策もゼロ金利まで行ったというと、それは量でやればいいのだという話になってくる。
正直言って、これは経済学者のおごりではないかと思います。
すなわち、金融財政政策によってすべてが解決するというのは、あまりにも経済学の論理のみにとらわれている考え方ではないのか。
いわば国全体が経済学の呪縛に陥っているという感じがしています。
そういう考え方をとるとどこかに出口を求めないと話は完結しないわけですから、結局は財政がだめならば金融政策という短絡的な方向に行くことになる。
しかし、金融政策は魔法の杖ではない。
できることとできないことがあるし、金融政策は効く時と効かない時がある。
そこをしっかり認識して、その前提に立った上で議論をしないとおかしくなると思います。
アメリカの経済学の教科書に書いてあることをそのまま日本に持ってきて、これしかないと言うのは、受け売りの経済学です。
我々はまずその呪縛から逃れて考える必要があるということです。
いないという世界であっても、貯蓄・投資バランスが埋まっていないというリスクはあるわけで、これがMさんが指摘しているもっと根底の中長期的な問題ではないでしょうか。
バブルの問題は時間をかけて片づけていくことができるだろうし、実際、過去に同じような局面にあった国々も時間をかけて片づけていきました。
それでも残る問題が本当の日本の経済政策のチャレンジだろうというのは、まったくその通りだと思います。
経済学者のおごりということをMさんは言われましたが、私もそれにまったく同感です。
とくにアメリカの過去の一○年があまりにもよかったから、アメリカでやったものが日本でも全部使えるという雰囲気が、アメリカの経済学者だけでなく、日本でもずいぶん定着しています。
アメリカはこの一○年間、マネーサプライをうまくコントロールして、インフレもうまくおさまって、構造改革も進めてきた。
だからそれを全部、日本にそのまま持ってくればいいではないかという、言ってみればマネタリスト的な発想が非常に強く出てきている。
これが日本銀行にも大変なプレッシャーとして現れています。
こういう議論は、マクロの世界だけにとどめると非常に説得力があるのです。
例えばマネーサプライを倍にせよという話がよく言われる。
ほかのものが何も変わらない一定のところで、マネーサプライが倍になれば物価は倍になるではないか。
物価が倍になれば、今のデフレの問題も資産価格のバランスシートの問題も半分片づくのだから、なぜやらないのかという議論です。
一般の人々はそれを聞くとそうだなと納得してしまい、なぜやらないのかと考えます。
というのは、一兆円以上よけいに貸すには貸出基準を相当緩めなければいけないからです。
貸出基準を緩めなければいけないというのは、今すでにギリギリまでやっているとしたら、はっきり言ってそれは銀行経営者の背任行為になります。
ギリギリのところでやっと一兆円貸し出せるという時にそれ以上貸すというのは、本来ならば貸せないところに貸すのですから、やってはいけない行為です。
でも、そうでもしなければそれ以上のお金は出ないで、そこで止まってしまいます。
それがかろうじて止まらずにきたのは結局、政府が赤字を出していたからで、えない話なのです。
ところが、これをミクロに持っていくと多くの問題が表面化します。
今のような状況で、企業が、これまでは過剰投資だったから早くバランスシートをきれいにしなければいけないということで借金を返済している。
一方、Nが資金供給をやって最初にお金が入っていくのは金融機関、つまり銀行です。
銀行は貸し出しという形でこれを外へ出さなければいけないのですが、今企業全体が借金返済をやろうとしているから借り手がいない。
例えば、ある銀行が一生懸命苦労して、貸出基準もギリギリに緩めて金利も一番下げて何とか一兆円出せるようにしたとしましょう。
そこでアメリカの学者が言うように、とにかくNはお金をどんどん出せということで、ギリギリ一兆円しか出せない銀行に対してNが一○兆円の預金をしたとします。
預金は一○兆円ある。
しかし、今の貸出基準では一兆円しか出ないという時に、預金が一○兆円あればこの銀行はあと九兆円を貸すかというと、それはあり銀行は国債を買って、政府を介してお金がやっと金融機関の外へ出て回っているということなのです。
今はそういうギリギリのところで日本経済を支えている。
こういうところでマネーサ”プライを倍にせよと言っても、需要がないからできるわけがないのです。
ところが、資金需要がないという我々の過去一○年間の世界を、そういう経験をまるでしたことのない人々に説明すると、ほとんど火星人としゃべっているのかという顔をされます。
というのは、普通の世界ではそういうことはありえないからです。
普通の世界では、企業は利益の最大化を追求するという前提でものを考えるから、金利が少しでも下がれば絶対に貸し出しは増えるはずだ、誰かが限界的に借り入れを増やすはずだ、だから景気は良くなるとみんな思っているわけです。
ですから資金需要がないと言っても、そんなことがあるわけはないという議論になってしまいます。
もっと資金供給をすれば必ず誰かが拾って使ってくれるはずだということで、ここで話が合わなくなってしまう。
しかし現実の今の日本ではそういうことはできません。
この資金需要がないということは、Nの「短観」のなかでもはっきり出ています。
貸し手はお金を貸したがっているし、金利も低いが、借り手がいない。
そういう需要側の要因があるのだから、供給側の対策ではどうしようもない。
では、日本だけでこういうことが起きているのかというとそうではなくて、実は一九三○年代のアメリカでも同じことが起きていたし、今の台湾でもタイでも起きています。
また現在のアメリカも、そういう方向に向かっている。
同じような問題を抱えたところでは同じようなことになるだろう。たとえそうだとしても、Mさんが言われた中長期の構造的な問題、企業がお金を借りるようになってマネーサプライがある程度回るようになったとしても、投資と貯蓄のギャップが埋まらないリスクは、残念ながらあると思います。
これはマクロ経済政策というよりも、本当の意味での構造政策に手をつけないと対応できません。
そうでなければ、この部分だけは半永久的に財政赤字を出すということになってしまうわけで、ここはもっと議論しなければいけないという気がします。
ただ、戦後五○年という間に、こういうことが起きたのはごく最近の日本までなかったので、大半の人々がそのようなことが起きうることを忘れてしまったのです。
そこで一九三○年代のアメリカの出来事を細かく調べてみるとまったく同じことが起きていて、そこから経済学者がいろいろな議論をしてケインズ経済学が出てくるわけです。
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